偽計数学妨害罪

うるせぇ、こっちは遊びで数学やってんだよ

飲み物を飲むのに適さない実験器具5選

どうも、チオールです。


突然ですが、皆さんはドラマやアニメで「実験室で理系キャラが実験器具に飲み物を入れて飲む」というシーンを見たことは無いでしょうか。



日常的な何気ないシーンで理系っぽさを出せる便利な演出ですが、一方でネット上では

  • 不衛生
  • 余計な汚れをつけるな
  • 真似する奴がいたらどうすんだ


等の非難の声をたまに見かけます。


それを見て、私はふと思いました。


「もっと飲み辛い実験器具なら誰も真似しないのでは?」


ああいう場面で使われる実験器具は、大抵はビーカーフラスコ等の比較的使いやすいものばかりです。


そして、「真似したら危ない」というクレームは、真似する可能性があるからこそ発生するものです。


ならば、もしも創作物の登場人物がめっちゃ変な実験器具で飲み物を飲んでたら、誰も文句は言わないのではないでしょうか。


ということで、飲み物を飲むのに適さない実験器具を探してみることにしました。

レギュレーション

一応ルール的なものを決めておきます。

「ガラス製の器具」に限定する

実験器具といってもいろんな種類がありまして、例えばSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)という実験器具は

  • でかくて重い
  • 値段が超高い
  • 飲み物を飲むうえでどこをどう使ったらいいのかわからない

という理由により、「飲み物を飲むのに適さない実験器具」に該当します。


しかしこんなものを紹介しても全然面白くないので、この記事で扱う実験器具はガラス製のものに限定します。

ランキング形式ではない

ガラス製に限っても、この世に存在する全ての実験器具に対して「飲みやすさ」を検証するのは今の私には不可能です。


なのでランキングの作成は諦め、私が使ったことのある実験器具の中から「個性的な使い辛さがある」という条件で5つの実験器具を選んで紹介することにしました。

実際に使い辛いかどうかは試さない

当然です。



というわけで、さっそく個性豊かな実験器具たちを紹介していきたいと思います。

NMRのサンプルを入れるやつ

※名前を見てもピンとこないようなマイナーな器具が多いので、器具の名前は紹介しません。名前分からんやつもあるし。
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器具の説明の前に、まず"NMR"の説明をしておきます。(今後もマイナーな単語は極力説明していきます。興味がない人は読み飛ばしてください。)

NMR

"Nuclear Magnetic Resonance"(核磁気共鳴)の略。元は現象の名前を指す単語だが、そこから転じてNMR現象を利用した分析装置の方もNMRと呼ばれることがある。
NMR装置はざっくりいうと「特定の原子が、他の原子とどんな感じでつながっているか」を見る装置で、有機化合物の構造を特定するのに使ったりする。原理は知らない。


この器具は直径5 mm、長さ20 cm程度のガラス管で、片側が閉じているためビーカー等と同じ「容器系」に分類できます。

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底面


「底が丸いので自立しない」という基礎的なポイントを押さえつつ、この器具は「異常な細長さ」という強みを持っています。


まず飲み物を入れようとした時点で「入る量が少なすぎる」「そもそもスポイトとかを使わないと中身を入れられない」という壁にぶつかります。


そして何とかして液体を入れ、口元に持って行って傾けると衝撃の展開が待ち受けています。


なんと、容器をひっくり返しても中の液体が出てこないのです。


これは細めのストローを使っているとき、ストローが液面から離れても中の液体が落ちないことがあるのと同じです。


この容器を洗う際は、底の方を掴んで強めに振って遠心力で中身を出す必要があるのですが、その動きで出た液体を口に入れるのは至難の業でしょう。

窒素置換をするときに使うやつ

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窒素置換

空気中の酸素などが邪魔になるような実験をする際に、実験器具内の空気を純粋な窒素ガスに置換する操作。真空ポンプで空気を吸う→窒素を入れる という操作を何回か繰り返すことで行われる。


飲み物を飲むための道具というのは、「容器」だけではありません。


この器具で飲み物を飲む場合、飲み物を吸い上げる「ストロー」として使うことになるかと思います。


構造は大体以下の図のようになっており、上のツマミを回すことで下の管の接続先が切り替わります。

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☝構造の説明


この器具は、ストローの中でも特殊な「二人用ストロー」に似た構造をしています。

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二人用ストロー


使ったことが無いので分かりませんが、二人用ストローの存在意義というのは「二人で顔を近付け合わないと飲めない」というところにあると思います。

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☝使用例(顔を近付けている画像が多い)


その点においてこの器具は飲み口の部分が非常に短いため、普通の二人用ストローよりもさらに顔を近づける必要があります。


なので二人用ストローとしてみると普通のものを超える「良さ」がある・・・なんてことは全くありません。


先程の構造の説明を見ると、左右の飲み口のうち飲み物と繋がるのは常に片側だけになることがわかります。


つまり、そもそも二人同時に飲み口を咥える必要が一切ないのです。


そして一人用ストローとして使う場合、先程長所として挙げた「飲み口の短さ」がそのまま使い辛さに変わります。

液体を一滴だけ取るやつ

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科学的な分析手段の中には、使用するサンプルが一滴だけのものもあります。


この器具は両端が開いた細い筒状になっており、先端をサンプルに浸す→反対側を指で押さえる という手順でごくわずかな量の液体サンプルをとることができます。


飲み物を飲む道具としては、先程のものと同様に「ストロー」に分類されます。


しかし先程の器具が「一見長所があるように見えて、他の要素により台無しになったうえに長所に見えた点がそのまま短所に姿を変える」というトリッキーな使い辛さを持っていたのに対し、この器具は「とにかく細すぎる」という一点のみのストロングスタイルで勝負します。


ちなみに、最初に紹介した「NMRのサンプルを入れるやつ」の中身を吸い出すのに最適なのでは、と思うかもしれませんが、


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長さが足りません。

気体を冷やすのに使うやつ

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この器具は長さ約30 cmの二重構造のガラス管で、蒸留や凍結乾燥などをするときにポンプで吸い込んだ気体を冷やすのに使います。

凍結乾燥

サンプルを凍結させ、圧力を下げることにより溶媒を昇華させる乾燥法。加熱により変質するサンプル等に対して使用される。
食品加工における「フリーズドライ」と原理的には大体同じらしい。

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凍結乾燥の概略


少し複雑な構造をしているため、この器具は「ストロー」と「容器」のどちらにも分類できます。


まずストローとして使う場合、T字型という形状が全力で足を引っ張ります。

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☝ストローとしての利用法


「重くてバランスが悪い」「容器の縁に引っかかって、液に浸かる部分が短くなる」等の難点に加え、内部構造にも問題があります。


単に体積が無駄に大きい(⇒液が口に届くまでに吸う空気の量が多い)というだけでなく、「吸っても液体が上がってこない」という状況が生じます。

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☝吸い口から遠い方の液面が内側の管の高さまで下がると、液を吸い上げられなくなる


次に「容器」として使う場合ですが、吸い口が二つあることを考えると「二人用ストロー一体型容器」という非常にニッチな種類の容器とみなすことができます。


しかし両側から同時に吸う場合、構造上普通のストローを両端から吸っているのと同じなので、結果として吸う力の強い方にだけ液が流れ、もう一人は全く飲めません。


よって「窒素置換をするときに使うやつ」と同様に、二人で使う意味が全くありません。


ちなみに、ストローとして使う場合の「途中で吸えなくなる」という問題は2人だろうが一人で使おうが関係なく襲ってきます。


また、ストロー/容器のどちらの用途でも、もっと深刻な問題があります。


この器具は反応や測定等の不純物が問題になる場面では使われず、なおかつ非常に洗いにくい構造をしています。


そのため(少なくとも私が所属している研究室では)あまり洗わずに使用され続けており、内部が薄汚れているため飲み物を飲むのに使うと非常に不衛生です。

エバポにつけるやつ

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エバ
エバポレーター」の略だが、今回は特に「ロータリーエバポレーター」を指す。
エバポレーターは減圧により気体や個体を蒸発させるのに使う装置で、ロータリーエバポレーターは容器を回転させることで液体の界面を広げ、効率よく蒸留を行う装置である。今回紹介する器具は試料が入った容器とエバポ本体の間に取りつけるもので、試料が突沸した際に装置内に流れ込むのを防ぐ役割がある。

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エバポの概略

使用方法や原理の詳細は説明が面倒なので、以下のサイトを読んでいただきたい。
【Vol.1】研究室ってどんな設備があるの? 〜ロータリーエバポレーター〜 | Chem-Station (ケムステ)


この器具に飲み物が注がれていて、それを今から飲むという状況を想像してみてください。

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☝例えばこういう状況


目の前には、変な形の容器に入った飲み物。


球体の上下に二本の筒が付いていて、下の筒は球の中央まで貫通している。


ほとんどの人はこう思うでしょう。


「どうやって飲むんだ?」


傾けて上から飲むのか?
そしたら下からこぼれるんじゃないか?
そもそも下の筒は何のためにあるんだ?
どうにかして下から飲むんじゃないか?


この状況は、おそらく「しゃぶしゃぶ鍋を初めて見たとき」と似ているのではないでしょうか。


あの奇妙な形状、そしてその意味の分からなさ、それらが生み出す困惑は完全に同種のものでしょう。


しかし、似ているものはこれだけではありません。


実験器具というものは、大抵の場合実験室で使うものです。


実験室の中で、奇妙な道具を目の前にして、その中身を得るために思考を巡らせる。





これはあくまでも私の推測に過ぎないのですが、この器具で飲み物を飲むことで知能テストを受ける猿の気持ちを体験できるのではないでしょうか。

最後に

以上が私が勝手に選んだ「飲み物を飲むのに適さない実験器具5選」です。


もし「この器具もめっちゃ飲みづらいぞ」とか「この器具そんなに飲み辛く無かったぞ」等の意見がございましたら、ぜひ一度普通の道具で飲み物を飲み、冷静になってください。


それではさようなら。