偽計数学妨害罪

うるせぇ、こっちは遊びで数学やってんだよ

世界のナベアツがどれほどアホなのか数学的に分析する

こんにちは、チオールです。


皆さんはナベアツ数という数をご存知でしょうか。


ナベアツ数は、以下の式で定義される自然数です。



N(n)=3+\displaystyle{\sum^{3n}_{m=n}}\left\lfloor\left(\frac{n-1}{\displaystyle{\sum^m_{k=3}}2^{-\left(1-\left\lfloor\text{cos}^2\frac{k}{3}\pi\right\rfloor\right)\displaystyle{\prod^{\lfloor\text{log}_{10}k\rfloor}_{i=0}}\left|\left\lfloor\frac{k}{10^i}\right\rfloor-10\left\lfloor\frac{\left\lfloor\frac{k}{10^i}\right\rfloor}{10}\right\rfloor-3\right|}}\right)^{\frac{1}{n-1}}\right\rfloor


・・・というのは冗談で、ナベアツ数とは「3の倍数と3の付く数字」の総称です。


言葉で表すとシンプルですが、数式で表そうとすると先程の式のようにめちゃくちゃ複雑になるそうです。


※☟出典


40以下の自然数の内、ナベアツ数であるものを赤色で示すと以下のようになります。


1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40


ナベアツ数という名前は、かつて「3の倍数と3の付く数字のときだけアホになる」というネタで人気を博した「世界のナベアツ」というお笑い芸人に由来します。


ja.wikipedia.org
※現在は落語家として活動しているそうです。


元ネタでは1から40までを数え上げ、合計21個のナベアツ数と出会います(=21回アホになる)。


割合でいうと21÷40=52.5%、つまり1から40まで数える間で半分以上はアホになっているということになります。


半分以上というと「意外と多い」という印象を受けるかもしれませんが、少し考えると30~39まで10連続でナベアツ数が出続けるせいだとわかります。


では、もし40を超えてもっと大きい数まで数えたとき、世界のナベアツはどれくらいの頻度でアホになるのでしょうか?


調べてみると組み合わせ論などを駆使してナベアツ数の具体的な個数を求める式なんかが出てきますが、今回は違うアプローチを思いついたので紹介したいと思います。

割合と逆数和

先程「40以下の自然数の内、ナベアツ数の割合は52.5%」と説明しましたが、この割合という概念は自然数全体の集合に拡張できます。


例えば自然数全体の中での偶数の割合は以下のように考えることができます。


有限の自然数nについて、n以下の自然数の中の偶数の割合を考えます。


nが偶数のときはちょうど\frac{1}{2}で、奇数のときは\frac{1}{2}より小さい値になりますが、\frac{1}{2}との誤差はnが大きくなるとだんだん小さくなっていきます。


f:id:Hassium277:20210619232723p:plain


つまりn以下の自然数の中の偶数の割合n\rightarrow\infty\frac{1}{2}に収束するので、これを自然数の中の偶数の割合は\frac{1}{2}と解釈します。


これと同様にして、自然数全体における「3の倍数」や「10で割って3余る数」の割合などを考えることができます。


ここで注意しなければならないのは、「割合が0だからと言って1個も存在しないわけじゃない」という点です。


例えば「偶数かつ素数である数」の割合は、該当する数が1個しかないので

\frac{n以下で素数かつ偶数である数の個数}{n}

は0に収束します。


有限集合の中では割合が0なら1個もないと言えますが、自然数全体は無限集合なのでこのような感覚的におかしいことが起きます。


また、「偶数かつ素数である数の集合」は有限集合なので「無限集合の中での割合が0」という性質が分かりやすかったですが、実は無限集合でも自然数の中での割合が0になる例があります。


例えば「素数全体の集合」「平方数全体の集合」「冪乗数全体の集合」「2の冪乗全体の集合」等は、自然数全体の中での割合が0であることが知られています。(証明は面倒なので省きます。気になる人は実際に割合を計算してみると0に収束しそうなことがわかると思います。)


割合という概念は、ある性質を持つ数の珍しさを表していると解釈できます。


例えば偶数と3の倍数の割合はそれぞれ\frac{1}{2}\frac{1}{3}なので3の倍数の方が珍しくて素数や平方数の割合は0なのでもっと珍しいと考えることができます。


ところで、数の珍しさを表す概念は割合だけではありません。


例えば、逆数の総和が収束するかどうかでも珍しさを測ることができます。


先程珍しい数の一例として紹介した「2の冪乗数」ですが、この逆数和、つまり

\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+\frac{1}{16}+...

が有限の値に収束することは比較的わかりやすいと思います。

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☝2の冪乗の逆数和が収束することの図形的説明


ちなみに、\frac{1}{2^n}に限らず1より小さい正の実数rについてr^nの総和は収束し、図形的説明としては以下のようなものがあります。

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☝1より小さい正の実数rについて、r^nの総和が収束することの図形的説明

※逆数和の話からは少しそれた話ですが、後で使うので覚えておいてください。


また、珍しくない数として紹介した偶数の逆数和は、

\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{6}+\frac{1}{8}+...

=\frac{1}{2}(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+...)

と変形できるので、全ての自然数の逆数和が発散することを知っていれば偶数の逆数和も発散することがわかります。

ja.wikipedia.org

このように逆数和が収束するかどうか数の珍しさとリンクしており、「逆数和が収束する数は珍しく、発散するのは珍しくない」と考えることができます。


一般に、自然数からなる集合の要素の逆数和について以下の性質が成り立つようです。

  • 自然数全体の中での割合が0より大きければ発散する
  • 割合が0でも発散するときとしないときがある
  • 有限集合なら収束する


例えば割合が0の集合の内、2の冪乗数、冪乗数、平方数は逆数和が収束しますが、素数の逆数和は発散することが知られています。

ja.wikipedia.org

ということは割合を見て珍しいと判断された場合でも、逆数和で見ると珍しくない場合があるので、逆数和の収束性の方が珍しさの指標としては厳しいという事になります。

ナベアツ数・非ナベアツ数の逆数和

前置きが長くなりましたが、ナベアツ数の話に戻ります。


Googleで「ナベアツ数」で検索すると出てくるページには、自然数全体の中でのナベアツ数の割合は1であるという内容の記述があります。

dreamscience.miraheze.org

ということはナベアツ数は全然珍しくなく、逆に非ナベアツ数の割合は0になるので非ナベアツ数は珍しいということになります。


では、割合ではなく逆数和で見た場合はナベアツ数・非ナベアツ数の珍しさはどうなるのでしょうか?


実は、非ナベアツ数の逆数和は収束する、つまり非ナベアツ数はより強い条件の下で珍しい数であり、具体的には素数より珍しい数であると言えます。


というわけで、非ナベアツ数の逆数和が有限の値に収束することを確認していきたいと思います。


以下、非ナベアツ数の逆数和をS_{\bar{N}}とします。


まず、「3が付かない数の逆数和」をS_3とし、S_3が収束するかどうかを考えます。


以下の式は、3が付かない10以下の自然数の逆数和です。


1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}+\frac{1}{6}+\frac{1}{7}+\frac{1}{8}+\frac{1}{9}+\frac{1}{10}


そして次が、10以下の非ナベアツ数の逆数和です。


1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}+\frac{1}{7}+\frac{1}{8}+\frac{1}{10}


この2つを見比べると、非ナベアツ数の逆数和の方が\frac{1}{6}\frac{1}{9}が含まれていないので小さくなることがわかります。


同じ理屈により、「ある数(4以上)までの非ナベアツ数の逆数和」は「同じところまでの3が付かない数の逆数和」よりも小さくなることがわかります。


ということは、もし3が付かない数の逆数和(=S_3)が収束するならば、非ナベアツ数の逆数和(S_{\bar{N}})も収束することがわかります。


というわけで、S_3が収束することを示します。


まず、3が付かない数を桁数ごとに分けて考えます。


1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+...\frac{1}{8}+\frac{1}{9}

+\frac{1}{10}+\frac{1}{11}+\frac{1}{12}+...\frac{1}{98}+\frac{1}{99}

+\frac{1}{100}+\frac{1}{101}+\frac{1}{102}+...\frac{1}{198}+\frac{1}{199}

+...


次に、各行に何個の数があるか、つまり3が付かないn桁の数が何個ずつあるか考えます。


例えばn=10のときを考えると、右から1桁目から9桁目までは0、1、2、4、5、6、7、8、9の9種類の数の中から好きなように数を選んで当てはめることができ、10桁目は先ほどの9個から0を除いた8個を入れることができます。


ということは、3が付かない10桁の数は全部で9^9×8個あることがわかります。


一般に、3が付かないn桁の数は9^{n-1}×8個あります。


これを逆数和の式に書き加えるとこうなります。


\underbrace{1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+...\frac{1}{8}+\frac{1}{9}}_{9^0×8個}

+\underbrace{\frac{1}{10}+\frac{1}{11}+\frac{1}{12}+...\frac{1}{98}+\frac{1}{99}}_{9^1×8個}

+\underbrace{\frac{1}{100}+\frac{1}{101}+\frac{1}{102}+...\frac{1}{198}+\frac{1}{199}}_{9^2×8個}

+...


ここで、以下のような無限和を考えます。


S_3'=\underbrace{1+1+1+...1+1}_{9^0×8個}

+\underbrace{\frac{1}{10}+\frac{1}{10}+\frac{1}{10}+...\frac{1}{10}+\frac{1}{10}}_{9^1×8個}

+\underbrace{\frac{1}{100}+\frac{1}{100}+\frac{1}{100}+...\frac{1}{100}+\frac{1}{100}}_{9^2×8個}

+...


これは3が付かないn桁の数の逆数を\frac{1}{10^{n-1}}に書き換えたものです。


この無限和は元の数をより大きい数に置き換えているので、もしこの無限和が収束するならば、3が付かない数の逆数和も収束することになります。(先程「3が付かない数の逆数和が収束すれば、非ナベアツ数の逆数和も収束する」といったのと同じ理屈です。)


さて、S_3'は同じ項がたくさんあるので、まとめると以下のようになります。


S_3'=\underbrace{1+1+1+...1+1}_{9^0×8個}

+\underbrace{\frac{1}{10}+\frac{1}{10}+\frac{1}{10}+...\frac{1}{10}+\frac{1}{10}}_{9^1×8個}

+\underbrace{\frac{1}{100}+\frac{1}{100}+\frac{1}{100}+...\frac{1}{100}+\frac{1}{100}}_{9^2×8個}+...


=1×9^0×8+\frac{1}{10}×9^1×8+\frac{1}{100}×9^2×8+...

=8×\left(\left(\frac{9}{10}\right)^0+\left(\frac{9}{10}\right)^1+\left(\frac{9}{10}\right)^2+...\right)


よってS_3'\frac{9}{10}の冪乗の総和を使って表すことができます。


ここで先程述べた「1より小さい実数rについてr^nの総和は収束する」という定理を使うことで、S_3'が収束することがわかります。


そして、S_3'が収束するならばS_3も収束し、S_3が収束するならS_{\bar{N}}、つまり非ナベアツ数の逆数和も収束することがわかります。

まとめ

自然数を数えていく中で、世界のナベアツはほぼずっとアホである」というのはすでによく知られた結果のようでしたが、この記事では更に非ナベアツ数の逆数和が収束することを示し、非ナベアツ数が素数よりも珍しいことが明らかになりました。*1


例えば、「合成数のときだけアホになる」という偽ナベアツがいるとします。


これを「3の倍数と3の付く数のときだけアホになる」という本物と比べると、直観的には偽ナベアツの方が圧倒的にアホになる頻度が高いように思えます。

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世界のナベアツと偽ナベアツがアホになる回数の推移。100までなら偽ナベアツの方が多い。


しかし、非偽ナベアツ数(=素数)よりも非ナベアツ数の方が珍しいことを考えると、自然数全体で見れば実は本物の方がアホであることがわかります。


すごく非自明な結果ですね!

余談

wikipediaの調和級数のページには、「9が付かない数の逆数和」に関する記述があります。


この記事で扱った「3の付かない数の逆数和」と全く同じ理屈によりその無限和が収束することが確かめられるのですが、wikipediaではさらに

実は、十進表示列からどの特定の数字列を取り除いたとしても、そうして得られる級数は収束する。

と書いています。


このことから、以下の事実が明らかになります。




「999999999の倍数と999999999の付く数のときだけアホになる」というネタをやる「アルティメットナベアツ」がいるとする。このとき、アルティメットナベアツはほとんどすべての自然数に対してアホになり、合成数のときアホになる偽ナベアツよりアホである。









...マジで???

*1:前例は調べてません。