昔々あるところに、カール・フリードリヒ・ガウスという名前の青年がいました。
ある朝のことです。
目を覚ましたガウスは、あることに気付きました。
「正17角形は定規とコンパスで作図可能である」
何?
上記の逸話は、ガウスが数学者を志すきっかけとなったエピソードだそうです。
その真偽はともかく、「正17角形は定規とコンパスで作図可能である」というのは事実です。
作図を少しやったことのある人なら知っていると思いますが、正3角形と正方形は定規とコンパスで簡単に作図できます。
さらに、手順は少し複雑ですが正5角形が作図可能であることも古くから知られていました。
この他にも正15角形や正角形など作図可能な正多角形は無限に存在しますが、頂点数が素数のものに関してはずっと「正3角形と正5角形だけ」であると信じられていたようです。
ガウスは正17角形が作図可能であることを発見してそれを覆し、さらに正多角形が作図可能であるための必要十分条件も導き出しました。
ところで、ガウスの功績とは別に正多角形の作図について以下のような定理があります。
自然数、四則演算、虚数単位、平方根を有限回使って表せる複素数を作図可能数と呼ぶ。このとき、以下の定理が成り立つ。
正
角形が定規とコンパスで作図可能である
の全ての解が作図可能数である
例えばとすると、
の解は
、
、
なので、確かに自然数、四則演算、虚数単位、平方根を有限回使って表せます。
そしてガウスはでも同じことが起こる、つまり
の全ての解は自然数、四則演算、虚数単位、平方根を有限回使って表せる
ということを発見したというわけです。
・・・え?
が?
17次方程式が?
17次方程式の解が自然数、四則演算、虚数単位、平方根を有限回使って表せる!?
これは只事ではありません。
3次方程式の解は、特別な場合を除いて作図可能数にはならず、一般解を表すには立方根(のこと)が必要になります。
さらに5次以上の場合には、特別な場合を除いて自然数(略)に加えて冪乗根(のこと)を追加しても解を表せなくなることが知られています。
ということは、3次よりも5次よりもはるかに高い次数のという方程式は非常に特別な存在であるといえます。
というわけで、を解いてみたいと思います。
補足
の解の内一つは
実際にに
を代入することで簡単に確認できます。
また、因数定理よりは
で割り切れることになりますが、実際に割ると
になります。
例えばとすると、
が成り立ちます。
これにより、を解くには
という方程式を解けばいいことになります。
作戦1:
いきなり17次方程式を解くのは無謀すぎるので、まずは(正5角形に対応する方程式)の解法を考えます。
まず、を
で割ることで解くべき方程式は4次になります。
私は4次方程式の解法を知っているのでこれを地道に解いていってもいいのですが、ググってみたところもっとスマートな解法が見つかりました。
まず、両辺をで割ります。(
なので
で割っても問題ありません)
と
を別々の変数と見做すと、(1)式は
と
についての対称式であると考えることができます。
ということは(1)式は基本対称式の組み合わせで表せることになりますが、この場合の基本対称式はと
になります。
基本対称式の片方が定数になるという事は、(1)式はと置換することで
についての多項式に変形できます。
(2)式は何の変哲もない2次方程式なので、解の公式で普通に解けます。
最後にという関係式から
を求めることができます。
よって、の解は
となります。
では次に、本題であるに同じ方法を適用してみましょう。
まずはを
で割ります。
次に(3)式をについての対称式と見做して
と置換します。
これをするにはの
を使った表示を
まで求める必要がありますが、以下の漸化式で計算できます。
実際にまで計算すると以下のようになります。
そして(3)式はと等しいので、
これで無事に16次方程式を8次方程式に帰着させることができました。
さらに先程の手順を繰り返して、次は4次方程式に帰着させましょう。
まずは(4)式をで割って、
・・・あれ?
と
についての対称式じゃないじゃん!
というわけで、これ以上次数を下げることはできないので作戦1は失敗です。
作戦2:ゴリ押し
そもそも、4次方程式までなら大して工夫しなくても正攻法(?)で解けてしまいます。
ただし普通の4次方程式の解は作図可能数にはならないので、は解法の途中で
のどちらか(もしくは両方)が起きるはずです。
というわけで、まずはを正攻法で解いてみます。
まず、と置換して3次の項を消します。
次に(5)式がと因数分解できると仮定して、定数
、
、
、
を求めます。
(中略)
(6)式はと置換することで3次方程式になりますが、
は
という有理数解を持ちます。
この後の手順は2次までの方程式しか出てこないので、の解は全て作図可能数であることが分かります。
さて、上記の例と同様に考えると、も正攻法(っぽい手順)の途中で単純な方程式に帰着されるはずです。
まず、と置換して
から15次の項を消します。
一気に全部展開すると大変なことになるので、次数の低い項から順番に展開と整理を繰り返します。
...あれ?数値でかくね?
めっちゃ面倒臭くね?
もうだめだ...
心が折れる...!
心を折りました。別のことをしてリフレッシュ!
...冷静に考えると、を展開すると
が分母に出てきてしまい、そのまま計算するのは現実的ではありません。
何かもっと、スマートな方法は無いのでしょうか。
作戦3:???
自力ではどうにもならない気がしてきたのでググってみたところ、こんな解法が出てきました。
まず、の解の内の1つについて、
、
とします。
このときと
について以下の式が成り立ちます。
※なので、
と変形できる。
この2本の式をと
の連立方程式と見做すと、
と
を求めることができます。
さて最初にと定義しましたが、
であることを利用すると、
と同じように連立方程式で
と
の値を求めることができます。
さて、これをに応用するにはまず
~
を2つに分ける必要があるのですが、試行錯誤してもよくわかりませんでした。
なのでググってみたところ、「という変換に対して不変になるように分けると良い」*2という情報を得ました。
要するに、
と分けると上手くいくらしいのですが、残念ながら仕組みは理解できませんでした。
とりあえず、を計算します。
よって、と
は以下の連立方程式から求まります。
※符号の選び方はよくわからないので、常にプラスを選ぶことにします。
次に、
と定義します。
そしてz₁z₂を...zzを......
zzzzzzzzzzzzzzzzz..................
...ん......?
...朝だ。
計算途中で寝落ちしたのか...?
ああっ!
解けてる!!
の解が自然数、四則演算、平方根を有限回組み合わせて表せてる!!
...ってことは...
「正17角形は定規とコンパスで作図可能である」
最後に
いやぁまさか、ガウスと同じように「朝起きて、正17角形が作図可能であることを知る」という体験をすることになるとは思いませんでした。
ちなみに最後の式ですが、Wolfram alphaで検算をしてもらおうとしたものの長すぎて計算してもらえなかったので、合ってるかはわかりません。まぁ解法の大体の流れを追うことができたので私は満足です。
ところで、解法をググったりしている中でこんな情報を見かけました。
...マジで?
(おしまい)
*1:が合成数の場合、例えば
とすると
と因数分解され、
の解と等しいものが混ざってしまう。その解は3乗すると1になるので、9乗して初めて1になるような解は生成できない。
*2:http://www.f-denshi.com/000TokiwaJPN/01daisu/apdx06.html
*3:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%83%BC%E6%95%B0#%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%83%BC%E7%B4%A0%E6%95%B0
*4:https://www.asahi-net.or.jp/~KC2H-MSM/mathland/algebra/index.htm