こんにちは、108Hassiumです。
突然ですが、皆さんは3次方程式を解くことはできますか?
私は解けませんでした。
数学や物理、化学などの勉強をしているとたま~に3次方程式が出てくることがあるんですが、そういうときは解き方を工夫して回避したり諦めたりしてずっと3次方程式から逃げ続けていました。
しかし、調べてみるとなんと3次方程式は高校レベルの知識でも解けるようです。
どうやら私は、今まで自分の力で乗り越えられる壁から逃げていたようです。
...このままでいいのか?
いつか、乗り越えるべきなのではないか?
乗り越えた先に何があるか、知るべきなのではないか?
このままでいいのか!?
あと、コロナ恐慌で死ぬほど暇なので、3次方程式を真面目に解いてみようと思います。
予備知識:2次方程式の解法
突然ですが、皆さんは2次方程式を解くことはできますか?
私は勿論解けます。
以下の「2次方程式の解の公式」に代入すれば一発です。
の解は、
である。
※
2次方程式の解の公式といえば、導出方法を再発見した人が公式不要論を唱えて「解の公式の暗記を渋るような奴にそんな解法覚えられねぇだろ」と一蹴されるという流れをよく見かけます。
で、その解の公式の導出方法を一旦確認しておきます。
一般の2次方程式を考える前に、まずは一番(?)簡単な形の2次方程式
・・・(1)
を考えます。この方程式の解は
です。
一般の2次方程式は、(1)のような形に変形できれば解けることになります。
まず、2次の項の係数で両辺を割ります。
・・・(2)
次に、1次の項を消して
・・・(3)
という形に変形することを考えます。
を展開すると
となり、(2)の式と比較すると
であることが分かります。
これを(3)に代入すると、
となります。このように1次の項を消す手順を「平方完成」といいます。
を右辺に移項すると、
となります。
ここで(1)の解法を使うと、
となり、左辺のを移項することで
お馴染みのあの式になります。
3次方程式の解法
まず、1番簡単な形である
・・・(4)
という形の方程式から考えます。
3次式といえば、こんな公式があります。
・・・(5)
であることを利用すると、(5)を使って(4)を以下のように変形することができます。
あとはを解の公式で解くだけで(4)の3つの解を全て求めることができます。
ちなみに、のときの解の一つである
を
とすると、(4)の解は以下のように表せます。
・・・(6)
では、これを踏まえて一般の3次方程式を解いてみましょう。
但し一般論だけ考えても分かり辛いので、
・・・(7)
という具体例を使って考えます。
まず、2次方程式と同じやり方がどこまで通用するのか見てみましょう。
まずは3次の項の係数で割ります。
・・・(8)
次に、平方完成と同じようなやり方(立方完成?)で、
・・・(9)
という形に変形してみます。
これができれば(4)の解法を使うことができ、2次方程式とほとんど同じ手順で解けるはずです。
(9)を展開するとこうなります。
・・・(10)
(10)と(8)の左辺の係数を比較すると、以下の連立方程式が得られます。
...あれ?
のとき
がマイナスになることある?
解無し!?
...ってことは...
つみです。
2次方程式ほど簡単にはいかないようですね。
...こうなったら、あのお方の力を借りる他ありません。
先生ー!!!
...何じゃ?
ウィキペディア フリー百科事典先生!!3次方程式の解法を教えてください!!
ふむ、よかろう。あとフルネームで呼ばんでもいいぞ、てか「フリー百科事典」まで名前に入れる奴は中々おらんぞ。
3次の項の係数で割って、立方完成しようとしたら詰んでしまいました。何がいけなかったんでしょうか。
うむ、低次の項を消そうという着眼点はよいが、君は少し欲張りすぎたようじゃな。まずは2次の項だけを消してみると良いぞ。
と置換して、(8)の式を展開してみるのじゃ。
はい…?とりあえず展開してみますね。
あっすごい!係数がキモい値になったけど、2次の項が消えた!!
うむ。一般に2次の項の係数が
のとき、
という置換によって2次の項を消せるのじゃ。
なるほど、
と
の2次の項が打ち消し合うんですね。で、ここからどうするんですか?
次は
と置換するのじゃ。
へぇ~
...すみません、展開しても何も見えてこないんですけど。
こう変形するのじゃ!
・・・(11)
以外の部分を
でくくったんですね。
うむ。そして、こうじゃ。
なるほど、確かにこれが成り立てば(11)の式も成り立ちますね。あとはこの連立方程式を解けばいいってことですね。
うむ、その通りじゃ。そしてこいつを解くには「解と係数の関係」を...
まず(13)を
について解いて、
聞いておるか?
それを(12)に代入して、
いや、「解と係数の関係」を...
最後に両辺に
を掛ければ、
・・・(14)
できた!これで2次方程式に帰着できる!!
あぁ...うむ、そうじゃな。2次方程式の解の公式に代入して、(6)の式を使って、あとは置換の式から
が求まるな。
まず(14)を
についての2次方程式とみなして解いて、
あれ?そういえばこの±ってどうやって選んだらいいんですか?
(12)の式を思い出すのじゃ。ここで選ばなかった方の解が
になるのが分かるか?
なるほど。ということはどっちを選んでもいいってことですね。じゃぁ+の方を選んで、次は(6)の式を使って、
この3つはそれぞれ別の解になるから、選ぶことはできんぞ。
はこうですね。
これで
が求まりますね。
だから…あれ?
ん?
と
の組み合わせってどうやって選ぶんですか?適当に選んだら9パターン出来ちゃいますよね。
(13)の式を思い出すのじゃ。
が実数になるのが分かるか?
なるほど、
の部分が打ち消し合うように選べばいいんですね。ということは、
あとは
だから、
解けた~!!!!!
おめでとう!!
余談1:3次方程式を解いてやりたいこと
せっかく3次方程式が解けるようになったので、以前からやりたいと思っていたことをやってみます。
解と係数の関係・3次バージョン
3次方程式の解といえば、こんな問題があります。
の解を
、
、
とするとき、
を求めよ。
実際の、
、
の値が分かっているので、それを使って解いてみましょう。
「解と係数の関係」に恨みでもあるのか?*1
面倒なので一旦の中身を
、
と置いて計算します。
超気持ちいい~
簡単な3次方程式
次は以下の3次方程式を解いてみます。
・・・(14)
この方程式はと変形できるので、
が解になります。
...ここで終わったら何も面白くないので、あえて先ほど説明した一般の解法で解いてみます。
まず、と置換して1次の項を消します。
続いてと置換します。
これが成り立つには以下の連立方程式が成り立てばいいので、解きます。
についての2次方程式になったので、解の公式で解きます。
簡単なタイプの3次方程式になったので、解きます。
...あれ?
何この禍々しい値?
何か計算間違えた?
それとも...
まさかこいつらが-1、1、2なのか!?
とりあえず色々計算してみたのですが、あの3つの解が-1、1、2のうちのどれかと一致することを直接的に示せる方法は見つけられませんでした。
...こうなったら、あのお方の力を借りる他ありません。
先生ー!!!
...何じゃ?
Wolfram Alpha® 計算知能先生!!
を計算してもらいたいんですが。
ふむ、よかろう。
じゃな。これくらい朝飯前じゃ。
わぁすごい!じゃぁ解説を...
は?
あの、先生これは...
金払えや。
はぁ、そうですかそうですか。
じゃぁ、
を計算してください。
ふむ、よかろう。
(こうやって表示された解説を手動で実行して次の一手を聞き続けることを繰り返せば、最終的に解説内容を全部見られるはず...。)
は?
金払えや。
...というわけで、Wolfram Alpha先生に答えを教えてもらうことはできませんでした。
ちなみに他の2つの解について聞いてみたところ、で
だそうです。(やはり解説はしてもらえませんでした)
余談2:作図と3次方程式
定規とコンパスによる作図問題として、こんな有名な問題があります。
与えられた角を3等分せよ。
有名とはいっても、実はこの問題は解けない問題として有名です。
つまり、「定規とコンパスを有限回用いて任意の角を3等分することはできない」という事が知られているのです。
これがどういうことか理解するには、まずは「作図可能である」とはどういう事であるか考える必要があります。
複素平面上で作図可能な点のことを「作図可能数」とよび、以下のような性質を持つことが知られています。
が作図可能数である
は整数、
、四則演算、平方根を有限回組み合わせて作ることができる
整数係数2次方程式の解はと表せるので、必ず作図可能数になることが分かります。
一方で3次方程式の場合は、解を表すのに立方根が必要になる場合があり、その場合は作図可能数ではなくなってしまいます。
さて、角の3等分の話に戻ります。
ある角に対し
を作図するには、
の値から
を作図できればいいです。
加法定理を使ってを
で表すと、以下の式になります。
この式はについての3次方程式であり、この方程式の解が作図可能数にならない場合があるため角の3等分は作図不可能である、というわけです。
ちなみに「与えられた角を3等分せよ」という問題は、ギリシア3大難問という問題の内の1つです。
その3問の内容は以下の通りです。
- 与えられた角を3等分せよ(角の3等分問題)
- 与えられた立方体の2倍の体積を持つ立方体の辺を作図せよ(立方体倍積問題)
- 与えられた円と面積の等しい正方形を作図せよ(円積問題)
「難問」という名前であるにもかかわらず、これらは全て不可能です。
立方体倍積問題は与えられた線分の倍を作図することと同値で、
は3次無理数(3次方程式の解であり、2次方程式の解ではない無理数)であるため作図不可能です。
要するに立方体倍積問題が解けないのは角の3等分問題と大体同じ理屈なのですが、円積問題は若干事情が異なります。
「次方程式の解であり、
次方程式の解ではない」という性質を持つ無理数を「
次無理数」とよびます。
や
は3次無理数ですが、円積問題と本質的に関わる
は3次無理数でないことが知られています。
じゃぁってどんな数なのかというと、どんなに高い次数の方程式の解にもならない「超越数」という数らしいです。
文字通り別次元って感じですね。
余談3:三角関数による解法
先程は角の3等分が三角関数を通して3次方程式に帰着されるという話をしましたが、逆に3次方程式を三角関数を使って解くこともできるようです。
例として、(14)の方程式(、
の方)を使います。
まず、さっきの三角関数の式を見てみましょう。
と置いて整理すると以下のようになります。
・・・(15)
ということで、(14)を(15)の形に変形することを考えます。
まず(15)は2次の項が無いので、(14)から2次の項を消します。
次に、1次の項の係数をにするために
と置きます。
・・・(16)
(16)の1次の項の係数がになるということは、
が成り立てばいいことになります。
・・・(17)
(17)を(16)に代入すると、
・・・(18)
(18)と(15)の定数項を比較すると、
・・・(19)
が成り立つことが分かります。
また、なので、(19)の式を
の形に変形できればいいことになります。
はい、解けました。
面倒臭かったので3つの解のうち1つしか求めませんでしたが、-1、1、2のうちのどれかわからないのでまた調べてみましょう。
ふむ、任せなさい。
もう解説しようともしないんですね。
解説してほしかったら、
もう結構です。
余談4:真面目じゃない解き方
ここまで解の厳密な値の求め方について考え、最終的に複雑すぎてどんな値か全然わからないという残念な結果となりました。
一方、正確な値ではなく近似値なら非常に簡単に求められる方法が存在します。
例えば、「ニュートン法」という方法があります。
ニュートン法は以下の数列を計算することによりの解を求める方法です。
例として、として
の解である
の近似値を求めます。
まずは初期値としてを選びます。(初期値の選び方については後で触れます)
なので、計算すべき式は
となります。
なので、6項で12桁目まで計算できたことになります。
ニュートン法には以下のような図形的意味があります。
- 赤い線が
、赤い点が
の点
- 青い点が
、青い線が
から
軸に垂直に引いた線
- 緑の線が
における
の接線、緑の点は「緑の線と
軸の交点」
このとき緑の点はと一致し、赤い点との距離が「赤い点と青い点の距離」より小さくなる(赤い点に近づいて行っている)という理屈です。
ところで、先程の計算例ではの解の内の1つだけが求まりましたが、残りの2つを求めるにはどうしたらいいのでしょうか?
おそらく初期値を複素数にすればいいのだと思いますが、それでもどんな値がどこに収束するかは簡単にはわからなさそうです。
というわけで、再度ウィキペディア先生に聞いてみましょう。
お呼びかな?
すみません、ニュートン法の初期値と収束先の関係について教えていただけないでしょうか。
ふむ...
あれ、どうしたんですか?
まぁ、教えてやってもよいが…。
はい?
ほれ。
!?!?!?
こいつは「ニュートンフラクタル」といって、収束先に合わせて複素平面を塗り分けたものじゃ。*4
なるほど、赤が
に収束する初期値で、緑が
、青が
に収束するってことですね。
うむ、そういうことじゃ。
ってことは、3つの解の値を全部求めたかったらこの中から色の違う3点を勘で見つけないといけないってことですか。
うむ。もちろん元の方程式が違えばニュートンフラクタルも全然違う形になるぞ。
やってらんねぇな…。